そして、ダマされていく

 「世界一受けたい授業」という番組で経済アナリスト森永卓郎氏が「子供をオタクにせよ」と言っていた。要は子供には何か一つ好きなことを見つけさせなさいということらしい。村上龍の「13歳のハローワーク」がベストセラーになったのもその延長線上で、好きなことを仕事にするのがこれからの世の中では幸せなことであるから、ということらしい。芸能人の皆さんもかなり納得顔でふむふむとうなづいていた。
 まてよ、と思うのである。
 嫌いなことを仕事にする必要は全くないけれど、好きなことを仕事にするのは本当に幸せなんだろうか。言いたいことは分かるのです。そんなに好きじゃない仕事に就いて、ああまた仕事かヤだな、と言いながら会社にでかける親の姿を見ていたら、好きなことを仕事にすることがよいことであると思えるのも無理はない。
 ただ、誰もがその好きなことを仕事にすることができるわけではない。無制限に誰しもその職業に就けるとは限らない。必ず誰か零れ落ちる。ここで「好きなことを仕事にすることこそ幸せ」イデオロギーが蔓延していると、零れ落ちた時点でもう不幸だ、になりはしまいか。本当はそんなことはなくて、特に好きでもなかったことを仕事にしてみたら意外と面白くて後で好きになる、ということだってよくあるわけだし、また逆に、好きなことを仕事にしてみたら好きなことでいられなくなったってこともよくある。「こんなことならこれを仕事にしなければよかった」という話はあまりおおっぴらにならない。それは「好きなことを仕事に出来て幸せね」という他者からの声にかき消されるから。特にマスコミではね。今流行ってるのは「好きを仕事に!」キャンペーンだから。
 仕事とは要するに自分で自分を(あるいは家族をも)食わせていく手段であって、自分に合わないことを無理して続ける必要はないけれど、必ずしも好きなことでなければならないというわけでもないと思う。だから「仕事で自己実現」という言葉も好きじゃない。そもそも自己を実現するって何だ。理想を実現する、なら分かる。何、自己を実現て。「ほんとうのわたし」なんてどこにもない。ただそこにある、それが「ほんとうの自分」なのに。
 来週の講師は美輪明宏唐沢俊一斎藤孝なのだが、予告CMには唐沢俊一はほとんど触れられていない。なぜだ!私はこの人が一番見たいぞ。