少年の心を持った男性が好き

という女性よ、本当に?菊治みたいのでもいいの?「愛の流刑地」です。
(23日)
原稿を配り終え、反応を待つ。400枚だが早ければ2、3日もあれば読めるだろう。ま、仕事の合間だから1週間はかかるだろうか。
そんな中、真っ先に感想を伝えてきたのは冬香だった。翌日には読み始めたとメールが届き、3日目には明日お逢いできる日までには必ず読んで行きます、と言ってきた。当日の朝には「今読み終わりました。これから逢いにいきます」というメールまで送ってくる。
今日はすごくむし暑いわ、と言いながら飛び込んでくる冬香。すごくよかったわ、いろいろ勉強になりました、との感想である。忙しいのによく読めたね、と菊治が尋ねると、夫や子どもを送り出した後の午前中のわずかな時間と、寝静まった深夜、早朝に少しずつ読んだのだという。ばれないように、原稿はベッドの下に隠して…
菊治はその巧みさに驚き、そうまでして読んでくれたことに感動する。
(24日)
冬香の賛辞を受けた菊治はその日燃えまくった。褒めは力になる。
正常位に始まって、横→バック→冬香上→覆いかぶさる→男女180度入れ替わりな体位のフルコース。もう何が何だか。そのつど冬香は「殺して…」→菊治冬香の首絞める→噎せ(むせ)フィニッシュ!
この死の儀式も愛の儀式に欠かせぬものとなってきた。死んだように軽く眠るが30分で目が覚める菊治。息子さんが冬香の中に入ったままであることに気づき、そっと抜くと冬香は「あぁん」と身をよじる。まるで許可なく逃げ出してはだめ、と言うように。

「また冬香に全部食べられちゃった」
「そうよ、あの小説と同じよ」

「虚無と熱情」は、無為が満子に全て食べつくされ、虚ろになっていく様子を描いたのだ。何度も愛し合った末、男は女が感じる快楽の圧倒的な強さに嫉妬と敗北感を覚え、一人虚無の荒野に旅立つのである。

「あの小説、深くて、感心するところがいっぱいあったけど、最後は悲しすぎて…」

菊治としては甘く結ばれるだけの愛は書きたくなかった。愛を突き詰めていくと、最後は男女の根源的な差異に行き当たってしまい、そして破滅する…そこまで書かなければ文学ではないし、それが菊治の今表現したいテーマなのだ。
(25日)新章:花火
猛暑は少し汗っかきの菊治にとってはつらい季節だ。ま、横浜育ちだから暑さには慣れている。
梅雨明けの日曜日、シャツにショートパンツの姿で冬香を待っている。
もう夏休みだが、子どもの聞き分けがよくなったので約束どおりの9時にはやってくるだろう。(前回もそうだったし)テレビを見ながら待っていると、冬香からメールが届く。
「おはようございます」というタイトルとFUYUKAの文字が浮かぶ。突然義父たちが出てきたので来れなくなったという。
夫の両親だろうか。富山に住んでいるということだったが、今朝突然来たのか。それとも東京には出てきていて、会う日が突然今日になったのか。菊治との約束の方が先だろうから、冬香は日にちを変えようとしたが、結局無理がいえなかったのだろうか。
冬香が来られなくなるのは2度目だ。1度目は子供の風邪だったから仕方がないが、今回は夫がらみなので納得しがたい。夫を嫌いなことを隠し、表面をとりつくろって仲良く振舞うのだろうか。

「それも、結構大変かも…」

と菊治は思う。…そりゃ大変だろうがよ…今頃気づくのか、お前は。
(26日)
夫との結婚は、最後は義父のおめがねにかなったから決ったのだと以前冬香に聞いたことがある。この嫁ならおとなしく、自分たちの面倒もみてくれそうだからということらしい。
今時古風な話ではあるが、地方ではまだまだ多いだろう。夫より先に朝刊を読んではいけないとか、お風呂に先に入ったらいけないとか変なしきたりが残っているところもある。
都会のものには呆れるような話だが、地方ではそれにより古来の文化が守られているのかもしれない。
ともかく、冬香はやや古風な家に産まれて結婚し、今日まで生きてきた。それが控えめな性格を形作ってきたし、それが魅力でもある。
だが今の冬香は情欲のおもむくまま、奔放と言われても仕方がない状態だ。この全く違う自分を、義父の前でどのように使い分けているのか。

想像するうちに、菊治は辛くなる。
間違いなく、自分はその両面を知っている。そして義父には見せぬ、本当の冬香をつくりだしたのは、この自分である。

…義父に本当の自分を見せる嫁がいたら、逢ってみたいものでございますねえ…
冬香に逢いたくなるが、彼女からはメールも来ない。仕方なく、花火大会の予定表など見てみる。都内でもいろんなところで催されるようであるが、その中でも神宮外苑の花火大会はうちからも近い。8月初旬である。その日、冬香に逢えないだろうか。子供を田舎に帰して、その機会に浴衣を着てくるといっていた。花火大会なら一緒に花火を見ることもできる。

そしてそのまま、一夜を過ごしたい。
菊治は少年のように、夢をふくらませる。

つづく。
少年のように、ねぇ…夢じゃなくて違うところもふくらませてるんじゃないの?(超下品)
そんなこんなで菊治の妄想大暴走です。久々ですね。
やたらと義父の前では見せない姿を自分の前では見せるのだ…と妄想しまくりです。うーんと菊治よ、義父の前でそんな本当の自分だの、自分の性的奔放さだのを見せ付ける嫁などほぼ皆無といっていいと思うがどうだろうか…普通の女性はほとんど全員、そんな二面性持ち合わせて常識的に義父とのつきあいをしているよ。ホントに、女を知らないオヤジはこれだから…。
それにしても淳ちゃんはAERAでの「地方には冬香みたいな女性はいる」発言をこれまたストレートに物語に組み込んできました。組み込んだ、っつーか、ただ地の文で書いただけですけどね…