あらあら

ほんとだったのか…「愛の流刑地」です。
(27日)

そのとき、菊治はまだ何も考えていなかった。

突然冬香が何も言わなくなってしまい、さらに動きも止まってしまった。ただ愛のきわみで、あまりの快感に声を失っただけだろう。そうそう、絶頂に達して快楽にしびれ、ひたっているのだ。仕方がないなあ、また求めてきたら絞めてやらないと。菊治はそんな風に考えていた。
「ねぇ…」と声をかけつつ、挿入したまま腰を動かすが、冬香からは何の反応もない。
いくら快くとも、そろそろ正気に戻ったらどうか。菊治は冬香の頬をつつくが冬香はやはり応えない。目を閉じ、口をかすかに開けたままだ。
「どうしたの…」と言いかけ、菊治の脳裏にようやく「死」という言葉が浮かんでくる。
夜中に突然風が途絶え、暑さを感じる「風死す」という瞬間があるが、それがやってきたのだろうか。
(28日)
慌てて冬香の頬を叩き、冬香の名を呼ぶ。再度頬を叩き肩口を揺するが冬香の反応はない。「おい、起きてよ、起きて…」と声をかけるも、冬香は菊治が揺らすにまかせて揺れるのみである。
菊治はじっと自分の手を見る。この手で冬香を殺してしまったのではないか。冬香を愛撫したこのてで、そんなことができるわけがない。
冬香の喉元は喉仏の下が少しへこみ、黒ずんでいる。
「まさか…」
今まで何度も絞めてきたが、死ぬと言っても死んだことはない。咳き込んでは「なぜ離したの」とか「意気地なし」とか言われてきたのだ。冬香なら、どこまで絞めてもいいかわかっていたはずである。咳き込むこともなく、「ごわっ」と音がしただけだし、それ以上苦しんだり悶えたりはしなかった。そんなんで死ぬものか?
冬香を見やると体を投げ出し、軽く股間を広げ、太腿の内側を見せたまま横たわっている。こんな淫らで羞恥のかけらもない格好を冬香はしない。生きているなら慌てて隠す。

これは冬香ではない。こんな冬香はいない。

その瞬間、冬香が死んだということが、菊治の脳裏に鮮明に迫る。
(29日)
冬香が死んだのだ、と頭ではわかっても信じることは出来ない菊治。
冬香の唇に接吻し、舌を差し入れるが冬香の舌がそれに応えることはない。
「ふゆか、ふゆか…」と呼びかけ、口と鼻に手をやり呼吸を確かめるが、冬香は静まり返っている。「おい…」と頬や口先を叩き顔を揺らすが、やはり反応はない。部屋の電気をつけるが、もちろん冬香は自分の体を隠すこともなく体を投げ出したままだ。
「死んでいる…」妙に落着いているように思うが、落着いているというよりも今すぐ何をしたらいいのか分からないのである。
死とはこういうものなのか、と不思議な思いに駆られる菊治。呆気なく、前触れもなく、何も言い残さず、突然死んでしまうものだろうか。「いい…」とか「死ぬう…」とか言っていた冬香のことを思い出し、菊治は冬香にしがみつき「ふゆか、ふゆか…」と体を震わせ泣きじゃくる。
つづく。
あーあ、やっちゃったー。
3日分かけてようやく冬香の死に気づいた菊治です。遅いわ!
まあ死ぬなんて夢にも思わなかった動揺が表されている、というふうに好意的によみとることも可能なわけですが、まあそんな思いやりは淳ちゃんのためにならないと思うのであえてしません。だって菊治ったら「どれくらい絞めたらヤバイか冬香なら分かっていたはず」とか言い出してますから。こないだからやたらと「手で絞めたくらいじゃ死なない」とか首絞めプレイを舐めた発言してますから。ったく、蘇生術くらい身につけとけ。安易な気持ちでプレイに踏み込むとこういうことになりますよ、という性のエリートからの苦言ですかね。つーてもちょっと前に首絞めプレイにハマりこんだ人が偽自殺サイト作って本当に人の首絞めて殺して犯罪者になってますけど日経的には大丈夫ですか。日本経済新聞社としての見解はどうすんの。これを反面教師にするにはいささか無理があるかと存じますが…
それにしても…どーすんのこれ。