菊治に反省という言葉はあるのか

いやない。「愛の流刑地」です。
20日・21日)
「虚無と熱情」の出版を決めると何か吹っ切れた気がする。
気が付けば殺人犯になっているし、あんなに拒否された本の出版もこうしてあっさり決まってしまった。こちらの意思とは関係なく、いろんなことが運命のようなものに決められているようだ。ならば逆らっても仕方がない。運命のまま流されていこう。菊治の脳裏に「諦観」という言葉が浮かぶ。
菊治がアンニュイになっているもう一つの原因は、取調べの刑事との違和感だ。菊治はこれまでの取調べで自分が体験したこと、実感したことだけをできるだけ素直に述べてきた。
ただ冬香を快くしたいという気持ちだけで、セックスの絶頂で冬香が求めるまま首を絞めた。ただそれだけなのだ。
だが刑事は理由を求める。なぜ殺すほどに絞めたのか、絞めたら死ぬと分かっていたのではないか、良識ある大人ならどの程度絞めたら死ぬか分かるだろう、それでも圧し続けたのだから殺意があっただろう。それが刑事の言い分だ。いくら違うといってもその路線での調書の完成は目前のようだ。

菊治は検察庁や検事と聞くと身が引き締まる思いがする。
菊治の担当検事は女性だった。ほっとする菊治。当たりが柔らかそうである。ついでにかなりの美貌である。オリベです、と彼女は名乗った。菊治は「織部かな」と漢字を想像しながら検事に見とれ、安堵した。女性だから罪が軽くなるとは思わないが、男みたいに決め付けたりもしないだろう。それに女性の気持ちも分かるに違いない。冬香の絶頂での殺して発言についても理解できるかもしれない。
質問事項の確認程度で今日は終わった。
菊治は新しい安心を得て検察庁を後にする。
つづく。
はあ…つくづく菊治は反省してないのですね。結果的には人一人殺してるってことを重く受け止めなさいよ。殺意がなかったらそれでいいってもんでもないでしょうが。
それにしても菊治には、愛する人を自分自身の手で殺してしまった、この世から消してしまった、ということに対して何の苦悩もないのはどうしてなんでしょうか。殺してしまった直後の信じられないああ…うわーん、花蕊も冷たいよーの後、捕まってからこの手の苦悩が全く見られないのはどうしてだ。セックスしたいだけの気持ちをむりくり愛愛ゆうてましたが、もう口にさえしないですね。都合よく何だか寂しくなると天窓から冬香が現れてにやにやしてるだけって何なんだよ。死んでまで都合のいい女なのか冬香は。
冬香はひらがなで「ふゆか…」と呼んでいましたが、美人検事には漢字をあてたくなるようですね。こんな能天気の担当をさせられて織部さんも大変です。