恥ずかしい卒業アルバム

B型陳情団

B型陳情団

 直木賞作家・奥田英朗のライター時代のコラム集。
 この本の中に、酔っ払った学生グループが白人男性に話し掛け、中指を立てたために白人男性に詰め寄られるところを見た奥田氏が「殴られりゃよかったのに」と思った、という話が出てくる。
 これを読んで、うちの高校の卒業アルバムを思い出した。
 もう10年以上も前のものだが、修学旅行のスナップ集の中に、宿の部屋で一つの班の女子が全員中指立てて満面の笑顔で写ってる写真がある。体操服にジャージ姿の田舎の女子高生が笑顔で中指立てinトーキョー。アルバム編集委員の中に誰か1人くらい止めるヤツはいなかったのか、また英語の教師あたりに1人くらい止めるヤツはいなかったのか。ここに写っている女子たちも今ではいいお年頃だが、見返してみて恥ずかしくはないのか。

 この写真の中でひときわ笑顔で得意げに写っている広香は、同じ中学の出身で、中学時代は生徒会の副会長だった。成績・運動神経もよく、仕切り屋だったためクラスは広香派閥によって仕切られていた。普通自分から「成績はオール5」などと言う優等生は嫌われるものなのだが、彼女の巧妙な話術によってその傲慢な性格は気づかれずにすんでいた。表向きははきはきと仕切る優等生だったが、裏に回れば自分の意に染まない者は徹底的に排除する。派閥にそっぽを向かれるということは暗黒の中学生活を意味していた。
 私は幸いにも中1で同じクラスになっただけですみ、その後は広香とは別のクラスで平和な中学生活を送っていた。中1の時はまだ派閥も小さく、影響力もそれほどなかった。
 ある日私が友人と帰ろうと生徒会室を訪れた。
 生徒会室では広香が同じ派閥の女子2人と話しこんでいた。学校新聞の編集が終わらない友人を尻目に、かなり熱心に自分のしているペンダント(お守り袋のようなものがペンダントヘッド部分にある)を示し、さかんに「肌身離さず持っているもの」だと言っている。そしてお守り袋の中にはステキなペンダントヘッドが入っているのだと言う。あまりに自慢するので派閥構成員は中身に興味を抱き、見せて欲しいと言うが広香は「絶対に見せられない」とかたくなに拒否。見せられないなら自慢しなければいいのだが、「ステージがあがったから親にもらった大事なお守りだ」とのことだった。
 ステージ?友人の編集作業を手伝っていた私の耳にもその言葉ははっきり届いた。
 私「聞いた?」友「うん、聞いた」私「何だ?」友「後で教えてあげる」
 私と友人は目で会話した。さすがの派閥構成員も聞き過ごせず問い返していたが、広香は「ああ、誕生日に親からもらったから」と動揺もせず切り返し、「ねえ、高橋さん(私の友人)、どこまで進んだ?」と話をそらした。
 小学校が広香と同じだった友人・高橋の話によると、彼女の一家はとある宗教の熱心な信者らしい。別に勧誘するでも思想を押し付けるでもないので実害はないが、成績がオール5であることを言いたがりなだけに、家族以外の誰かにも自慢したかったのではないか、と高橋は分析した。
 何の宗教だったのか今もって分からないが、熱心な信者でも他人をいじめるんだ、宗教でも性格の悪いのは治らないんだ、ということだけは分かった。そして高校で卒業アルバムを手にしたとき、変わらぬ広香の影響力(もしくは影響を及ぼせる構成員を確実に探し出し傍に置くことのできる能力)にある意味感嘆し、係わり合いにならなくてよかったと胸をなでおろしたのであった。