うまいひと

 「石田衣良style」(宝島社)を読んでしまう。
 ロングインタビュー、衣良さんの案内する月島、川上弘美との対談、ライターによる書籍化作品のべた褒め記事、蔵出しコラムなどなど。いやあ、味わい深い。対談では、もし20代の頃に作家デビューしていたら、どんなものを書いていたかと川上氏に聞かれ、衣良さんは「純文学もどきかな。自分て何だろうみたいな。ま、カッコよく書いたとは思うけど」とお答えあそばしております。きゃー、ステキー。

 この人、プロなのだとは思う。なんつーか、いろんなことが「ウマイ」。
 小説もソツがない。「4TEEN」も「うつくしい子ども」も「娼年」も、「いい子」が出てくる。もちろん、大人が思うところのいい子じゃなくて、人としていい子。「常識的」な大人は眉をひそめるけれど、とってもいい子たち。泣き所もきちんと押さえてあって、物語としてもおもしろい。うまいんだと思う。
 コラムもソツなくまとめる。読売新聞のエッセイの最終回なんて、家を買うかどうしようかって話で、「この話はこの先どうなっていくのかぼくも知りたい」で〆る。日経新聞のコラムでは、街角で売られている「ビッグ・イシュー」を購入してください、と勧めてみたり、娘さんの運動会が「キンダー・ファミリー・パーティー」だったり、息子さんの運動会には「革のブルゾン」で出かけて行ったり。あくまでジャンパーとかじゃない雰囲気で。
 きっと学生時代は授業サボってなんやらいう洋楽を屋上で聞いてて、不良とも気安く付き合える、けして成績は悪くないが真面目ではない、退屈な世界史より窓の外を眺めている(by山崎まさよし)感じ。ぼくはオジサンだけど、若い子の気持ちは今も昔もそう変わらないと思ってるよ、と語りかけるような。
 そんな10代を題材にしている衣良さんは、「真剣10代しゃべり場」にも何度かご出演。若者達が熱く語るさまざまに耳を傾ける。ときどきぽつりと口を挟む。これがまたウマイ。若者の意見を否定するわけでなく、しかし大人の意見もきっちりはさむ。この絶妙なバランス。若者もころりとまいる、このウマさ。ちなみに現在しゃべり場では衣良さんと語り合いたい10代を大募集しています。衣良さんがあなたのもとへやってくる!
 「anan」でも恋愛特集組むと最近はもれなく衣良さんがついてきます。マガジンハウス、秋元康より説得力があるって気づいたのか?いや、あくまで秋元康に比べたら、衣良さんの方がカッコいいんじゃないのか?くらいの説得力ですけどね。
 結局なにが言いたいのかというと、衣良さんにだまされるなと。
 あいつはウマイやつなんだよと。
 サントリーの「ウィスキー&ミステリー」イベントで、北方謙三に後ろからピーナツ投げられても怯まない「爽やか憎まれっ子」(by大沢在昌)なんだよと。