そうきたか

にんげんには、がっこうのべんきょうよりもたいせつなものがあるとおもいます。(小学校時代の菊治の作文)
愛の流刑地」です。
男と女が対等に話すと男は分が悪い。特に腹の探り合いになると男は正直に本音をさらしてしまうが、女は巧みに隠してしまう。
これ以上話していると祥子にすべてバレてしまいそうだ。そうなる前に引き揚げようと思い、時計に目を走らせると祥子が呟く。

「わたしも東京にでてきたいなあ…」
祥子はたしかコンピューター関係の仕事をしている、ときいていたが、今の会社に何か不満でもあるのか。

夫も子供もいるでしょう、と菊治が問うと、子供は1人だし、夫はエージェントに勤めているけど東京に出たいらしい、とのことである。
祥子はため息を1つつくと、「仕事をするならやっぱり東京よね、先生、なにかいい仕事ありませんか」と菊治に尋ねる。祥子が現われたのは東京での仕事を見つけるためなのか。菊治は自分の生活でぎりぎりなのに、人の仕事の世話をする余裕なぞ、ない。

「わたし、大学がこちらだから、やはり、こちらで住みたいな」

そう言われてみて初めて冬香の学歴を知らなかったことに気付く。聞いてみると、冬香は富山の短大卒だという。

祥子は、東京の四年生の大学を卒たはずだが、菊治は冬香の、短大卒というところが、むしろ好ましい。
たしかに、学歴の点では四年制に劣るかもしれないが、冬香はそれ以上の、数え切れないほどの美点を持っている。
「やっぱり、冬香さんのことが気になるのね」

菊治は否定するが、すでに祥子には本心を読まれているのかもしれないと思う。
「でも、彼女に手を出しちゃダメよ」と祥子に言われ、菊治が黙っていると祥子が続けて子育てで忙しい時期に他の人を好きになったら大変でしょ、と言ってくる。

そこで祥子は、菊治の表情を窺うように見ながらいう。
「あの人、本気になったら大変よ」

つづく。
菊治よ、お前の本心が読まれてしまうのは、お前が男で祥子が女だからではないのだ、お前がぽろり体質だからだよ。お前が“うっかりさん”だからだ。なあ、菊治。何でも男と女のせいにするのはよさないか。お前、男と女のことについてはそんなに詳しくないじゃないか。
あ、そうだ、菊治には聞きたいことがあるんだ。答えてくれるかい?
冬香が短大卒なのが好ましい、とお前は言ったね。数え切れないほどの美点を持っている女だと。おじさんなあ、お前のつぶやきをけっこう長く読んでいるんだが、冬香の美点がてんくら分からないんだなあ。…ナニがいい、っていう話はもう聞き飽きたんだがね…
それにしてもお前は祥子が気に入らないんだなあ。どうも仕事ができるようには思えない祥子の話し方とか、わざわざ祥子さんが四大卒だからって短大卒の冬香と比べて短大卒のほうが好ましいとか言ってみたり…ようはお前が今日言いたかったのは、「祥子は学歴はあるが冬香より劣っている。冬香のほうが数え切れない美点がいっぱいあるんだもんねー!」ってことかな…