ベッドシーンは濃厚に

もちろんそれははずせません。「愛の流刑地」です。
(21日)
春の雪が止んだ代わりに、菊治の心に雪降り積む。
祥子が言ったことを思い出すだけで気が滅入る。特に冬香の夫のことである。
考えた末、菊治は冬香にメールを送る。祥子がやってきたこと、自分も東京に出たいと思っているらしいこと、そして冬香の夫をステキな人だと褒めたこと。
冬香は翌日のメールに次のように書いてきた。

「やはり祥子さんは訪ねていかれたのですね」
「彼女も一緒に東京に出てくれると、嬉しいのですが」

夫のことを菊治に話した祥子を恨むでもなく、一緒に上京したいとまで言う冬香に、菊治は拍子抜けする。それに夫のことについてはノーコメントである。祥子の言ったことを認めるのだろうか。それとも、祥子の言ったことにたいした意味はないと思っているのだろうか。
菊治には気になるが、冬香はもともと些細なことは気にしない、意外とおっとりしたところがあるので、大して気にとめていないのだろう。
菊治は勝手に解釈し、メールを送る。

「君のご主人がどんな人でも、僕は君を愛している。誰よりも冬香が好き」
そのあとに、ハートマークを三つ付けて送ると、すぐ冬香から返事がくる。
「わたしもです。もう少しでそちらへ行きますから、忘れないでいてくださいね」
そこにもハートマークと笑顔がついていて、菊治はようやく安堵する。

もうあたふたするのはよそう。なにしろ冬香は確実に自分の方を向いているのだし。
この春から書き下ろしで新作を書くと冬香に宣言したのだ。ナニが何でも始めなければ。
(22日)
菊治はもちろん恋愛小説を書こうとしている。今さらきれいごとの小説を書く気などない。
本当は冬香との恋を書きたいがまだ真っ只中でどう転ぶか分からない。それに、客観的な目で冷静に書く自信がない。
ただ、恋の真っ最中ということもあり、恋愛小説を書こうという意欲は旺盛だ。
この1ヶ月考えに考え、まとまったのは、自分が30代後半に体験した泥沼だ。妻のほかに2人の女性とも関係をもった。
あのころはまだスタミナも充分あり仕事も脂がのりきっていた時期だったが、それだけではなく、自分の内側から狂おしいほどのエネルギーがあふれ出て、ひたすら恋に没頭した。
女には業があるというが、男にだってあるのである。
熱情のおもむくままに女たちとかかわり、すべてから見捨てられてぼろぼろになる男を書きたい。すべてが自分のことではないが、この男に自分の中にあるものをぶつけたい。
タイトルは決まった。
「虚無と熱情」である。
つづく。
淳ちゃんとうとう作中小説に挑戦です。ああっ、大丈夫でしょうか。本筋の話もままならないのに…
本筋の方の菊治も祥子の発言に振り回されてばかりです。「ご主人がどんな人でも僕は君を愛している」「ええわたしもです」どこかかみ合っているような、かみ合っていないような。まあ天然系の冬香さんですから当然でしょうけれども。このメール、冬香の夫が送ってたらおもしろいのに。
さても「虚無と熱情」ですか…そんなスカしたタイトルなんてやめて、もっと売れそうでおもしろそうなタイトルにしてほしいですね。「ベッドの中心で恋につきうごかされるけもの」「短大卒はたまらない」「男業」「愛のデベロッパー」「恋はひひひん」「ウィルス感染PCになっちゃう」「愛はナマで中田氏」「くださいこそ愛」…菊治なみにつまらないものしか浮かびません。もっと修行します。