自由業万歳!

身を案じつつも、真の夫婦崩壊には知らん顔。それが菊治クオリティ。「愛の流刑地」です。
ほんの数枚でも小説を書き始めたことで、自分が作家に戻ったような気がする菊治。
それにしても冬香に逢いたい。逢って身も心も燃えれば、さらに書く意欲がわいてきそうだ。

「東京へ来る日は決まりましたか」

メールで尋ねてみるが未だはっきりしない。いろいろしておかねばならないことがあるのだろうが、前に逢ってからもう一月がたとうとしている。

もう我慢の限界で、これ以上、待たされると、おかしなところへ行くかもしれない、そうはいわないが、それに近い気持ちを訴えると、三月の半ばにようやく冬香から、はっきりした連絡がくる。

メールによると20日に引っ越すらしい。すぐには無理だが2日後の昼なら菊治の部屋へ来れるという。その日は週刊誌の校了日だが午後から行けば間に合うので、即了解の返事を送る。
ああ、自由業でよかった。サラリーマンなら勝手なことは出来ないだろう。いや、今の菊治なら、サラリーマンでもずるけて休むかも。
指折り数えているうちに冬香の引越し当日である。

いま頃、家族みんなできて、新百合ヶ丘のマンションに落ち着いたのか。それともホテルに一泊して、引越しの荷物が着くのを待っているのか。
前回での、ホテルでのことを思い出して、案じていると、冬香から、ようやく落ち着いた旨の連絡がくる。
「今日から、あなたのすぐ近くに住んでいるのだと思うと、嬉しいような、恐いような気持ちです」

嬉しいのは分かるとして、なぜ怖いのか。聞いてみたいと思いつつも、菊治自身もうまくいきすぎて怖い気がする。
つづく。
なにやら理由をつけつつ、ようは冬香に逢いたい菊治です。とうとう京都へゆかぬまま、冬香が上京してきました。もうホテルの窓から京都観光をすることもありません。さようなら、京都。一度でいいから菊治プレゼンツの京都案内をしてほしかった。菊治に京都のうんちくを聞かされまくる冬香(読者)。開陳されたうんちくとちょっとずれた質問を返す冬香。言葉に詰まる菊治。(以下無限ループ)そんな2人の会話を楽しみたかった…望んでももう叶いますまい。
うまくいきすぎて、怖い…さて、こんなにコワイコワイ言われると、きっとなにかあるんでしょう。「虚無と熱情」の方もどのような展開になるのか。目が離せません。
…いや、むしろ離したい。