気品て何かね

もういい加減、勝手に比べるのやめてください。「愛の流刑地」です。
(23日)
うまい魚で満腹。中瀬にもう一軒いこうと誘われる。異論なぞもちろんない菊治。
銀座のビルの地下にあるクラブ。かなり古いが高級でもなく、気軽に入れる場所だ。菊治も昔来たことがあり、作家も出入りするところだ。
以前来たときとは内装もホステスたちも変わってい、菊治を覚えているのはママだけだった。「村尾先生じゃありませんか」「どうされてたんですか?」もうすっかり過去の人か、村尾章一郎という作家は…と自虐的な気持ちになる。
水割りのグラスを合わせ一口飲むと、中瀬は隣の若いホステスと話しこむ。菊治はさほど興味がわかない。若くてぴちぴちした肌だがつい冬香と比べてしまう。

冬香にあって、クラブの若いホステスにないもの。それは、なにか一点、きっかりと抑制のとれた気品か。いや、それ以上に、切なさみたいなものか。

あにいってんだか。
ぼんやりとそんなことを考えていると、向かいの客がホステスの胸元を覗いて騒ぎになっている。関係ないと思っていたら隣の茶髪で丸顔のホステスがはなしかけてくる。

「先生って、なんの先生をされているのですか」
「いや…」菊治は少し間をおいて、「ちょっとした、大学のね…」と、答えておく。

(24日)
クラブには1時間ほどいた。銀座では落ち着かず、中瀬と別れて一人四谷・荒木町へ行く菊治。馴染みのバーに向かう。そのバーのママは昔新劇の女優をしていたとかで、60歳近いようだが今も艶めき50そこそこにしか見えない。
いつもはサラリーマンでにぎわっているが、今日はちょうど引けたところらしくカウンターには誰もいない。
中瀬が案内してくれた店はどれも悪くないが、自分にはこのあたりの大衆的な店のほうが気が休まる。銀座のクラブに行ってきたが自分は場末のほうが似合っている、とママに告げると少し気分を害したようだ。「若い女に振られたんだね」と返される。

「いや、そうでなく、やっぱり、ある程度、年令をとった女のほうがいい」
「ああ、お得意の人妻ね」
前になに気なく、人妻に惚れていることをいったのを、ママは覚えていたようである。

いっ、いつの間に!
アルバイトの女子大生は風邪で休みらしい。菊治はママと2人きりなのを確かめて、きいてみる。

「ママ、エクスタシーって、知ってる?」
いきなりきかれて、ママは呆れたというように、菊治の顔を見る。

つづく。
うへー、菊治のエクスタシー論を聞かされるのか…。ママの呆れた気持ちに激しく同意です。ついでに冬香の抑制の取れた気品てなんですか。一発目から「ください…」というような女性のどこに気品があるのか問いたい。抑制なんてないやん!