勝ち犬、ねえ…

淳ちゃんだって今時の話題、知ってるんですよ!(ズレてるけど)「愛の流刑地」です。
(4日)
和室の新館を予約した菊治。窓からは暮れ行く芦ノ湖、富士山が見える。
贅沢だわ、と冬香。菊治はいっちょ張り込んだのだ。1人4万近く、交通費を含めると10万はかかる。たった一晩にここまでかけるのはどうかと菊治は思った。

こんなチャンスは、もう二度とあるかわからない。とにかく行く以上は、思い出に残る素敵な部屋に泊りたい。

ロマンチックな乙女のようなことを思う菊治です。

わけのわからない未来より、いまを大事にしたいと菊治は思う。

うーん、わけをわからなくしているのは菊治の思考停止のせいであって…ま、何を言ってもムダですけどね。
(5日)
このところの菊治は自分でもはらはらするようなことをやりそうな不安に駆られる。この冬香の誕生日も、最初はレストランでちょっと食事でもできればと思っていただけだったのに、気づけばこんなことになっている。
残っている預金は700万円を割った。考えると不安だが、その余裕のなさが開き直りにつながっているのだろうか。年を経るごとに人は落ち着いてくるものと思っていたが、今の菊治は落ち着くどころか第3次、第4次反抗期といった体である。
まあそんなことも考えるのはよしにして、冬香を抱き寄せ窓辺で接吻である。むちゅー。すると仲居が外から声をかけてくる。慌てて身を離す二人。夕食は本館のメインダイニングだそうである。10分後には出ると声をかける菊治。芦ノ湖もこの部屋も夜の帳に包まれてきた。

そしてこの部屋で、今夜は思いきり冬香を抱き締めて、めちゃくちゃにしてやろう。
菊治の気持ちを知ってか知らずか、冬香はバスルームで髪を整えているようである。

(6日)
ホテルの本館・メインダイニングでの夕食である。アミューズが三島農園のミニトマト駿河湾でとれた伊勢海老、伊豆の鮑など、地元のものが味わえるようである。
シャンパンで乾杯する2人。「わたし、こんな素敵な誕生日をしてもらったのは、初めてです」という冬香。菊治は、本人がそう言うのだから謙遜ではなく本当にこのように祝ってもらったことはないのだろうと言葉通りに受け取る。コミュニケーション不全。そんな菊治の思いに気づく様子もなく、冬香は何だか罰があたりそう、などと言う。
ワインも頼んで酔ってもいいよ、と軽口の菊治。

「酔うと眠ってしまいます」
「ずっと、眠っていていいよ」
「そんなの、もったいないわ」
だとすると、冬香は夜通し燃え続けるつもりなのか。

菊治の頭はエロでいっぱいらしく、眠る→もったいない→一晩中アレ、としか考えられないようである。
もう37になってしまった、と言う冬香を眺めつつ、菊治は30から40代が成熟して素敵な年頃だと思う。

「でも、男の人は若くてぴちぴちした女の子がすきなのでしょう」
「違う、君は勝ち犬の勝ち犬さ」
「それ、どういう意味ですか?」
「結婚して、子供がいて、しかも彼氏がいる」
冬香は微かに笑ったが、すぐ首を横に振って、
「わたし、初めから、負け犬でよかったわ」

恋だけできればいい、ということだろうか、と菊治は思う。
つづく。
いやあ、それにしても菊治の対話能力のなさたるや、小説家とかいう以前に男としてどうですか。男の人は若い子がすきなのでしょう、に対していきなり勝ち犬の勝ち犬さ、って意味わかりません。淳ちゃん、負け犬論争に加わろうとして見事に玉砕です。それから冬香さん、どう考えてもあなたは負け犬になんてなれないですよ。仕事できなそうだし。
しかし彼氏がいるっていっても相手は菊治ですからねえ。それはかなりの度合いで負けている気がしますがいかがでしょうか。