別れは突然に

あ、本命じゃないっす。「愛の流刑地」です。
(27日)
ロマンスカー新宿駅に着く。乗換えが面倒くさくなり、菊治はタクシーで千駄ヶ谷の自宅に向かう。
自宅の郵便受けのDMにまぎれて、見覚えのある文字の封書を見つける。妻からである。封を開けると手紙と離婚届が入っていた。署名と捺印をお願いしますとのことである。
すでに別居して何年も経っている。異論はないが、一抹の寂しさを感じる菊治である。
(28日)
翌日の土曜日は*1前もって休みを取っておいた。近所の中華料理店でつまみとビール、そしてラーメンを食する。箱根での食事と比べると、格段に安いものだが、これが馴染みの現実と言うものだ。
自宅に戻り、妻に電話をかけてみる。短い間の後、妻が出る。「俺だけど」「元気か?」と簡単に挨拶を交わし手紙のことを切り出す。もともと2人の間でどちらかが離婚を申し出ればそれに沿う、ということにはなっていた。離婚については息子の高士も了承済みだというから、ならば反対する理由もない。
「結婚でも、するのか」と尋ねてみる菊治。仕事の関係の人と7月に結婚するという。
今までの身勝手さの償いもこめて、結婚前に食事でもしないかと菊治は誘うが、

「そんなこと、無理しなくてもいいわ、あなたも忙しいでしょう」

とあっさり断られる。

「幸せにな…」
「あなたもね」
電話はそれで切れてしまった。なんとも呆気ないが、いかにもさばさばとした妻らしい別れ方である。

つづく。
菊治としては、妻の性格がさばさばしてるから呆気ない別れだ、と思いたいのでしょうけれど、それは相手が菊治だからさばさばしてるんでしょう。きっと菊治としては認めないでしょうけどね。今まで離婚を切り出してこなかったのは、自分にまだ未練があるからとか勝手に思っていそうです。別居して長いんだから、今更償いで食事ったって大した食事でもなさそうです。それに長年一緒に暮らしてもないのに、何を話そうというのでしょう。ああもう、迷惑な。自分の中では美しい別れのように思っていそうですが、実際はいい加減ケリつけよ、という決心を妻がしただけなんでしょうに。

*1:注:翌日じゃねえや、旅行から帰ってきたのが土曜日だ!淳ちゃんなみにもう分からなくなっている私です。