もう勝手にしてちょうだい

R25でも取り上げられる淳ちゃん。官能小説に出てくる言い回しはあんまりないけれど。「愛の流刑地」です。
菊治は雨が嫌いではない。校了のころなど、明るい晴れた日であるより、暗く湿った雨の日のほうがはかどる気がする。
今日は校了あけで自宅に戻ると、いつもならすぐ眠ってしまうのだが、机の上の原稿に目を走らせる。5部コピーしてある。菊治はパソコンが苦手だが、人に頼んで用意してもらった。これを持って出版社を回るつもりだ。書き下ろしであるし、まして出版が約束されているわけではないので不安ではあるが、「村尾章一郎、久々の長篇傑作」との宣伝コピーが目に浮かぶようだ。この小説は自分ひとりで生み出した唯一のものである。
原稿用紙を触っていると、冬香のことを思い出す。明日は冬香が来る日なので、早速この小説を読んでもらおう。そんなことを考えていると、冬香に逢いたくなってくる。そこで菊治は箱根旅行のときにこっそり忍ばせておいたボイスレコーダーをとりだす。部屋を暗くし、ベッドに入り録音していたソレを聞くのがお気に入りだ。こんな妖しいことをしているのを冬香は知らないが、もし正直に言ったとしても露骨にいやな顔をしたりはしないだろう。
スイッチを入れると冬香の啜り泣くような声が聞こえてくる。すでに走り出しているようである。
つづく。
もう明日は冬香がやってきちゃうようです。またどうせ殺してだの首絞めだのあなたがいいのだの…本当に小説読むような時間があるんでしょうか。読めるもんなら読んでみろー!