新聞を読むたびに

虚無感に襲われる今日この頃。無為(人名)ではないのに。「愛の流刑地」です。
(22日〜24日)
検察庁へ行ってから2日後、取調室では刑事が調書を読み上げると言う。確認のためなので、間違っている記述があれば申し出ていいらしい。
菊治と冬香の名前や経歴から読み上げられていく。菊治はここで初めて冬香が24歳で結婚したことを知った。これまで菊治は冬香に大したことを聞かなかった。根掘り葉掘り聞いてしまうと、結局夫や子供のことに行き着いてしまうからで、そこにはあまり触れたくなかったのだ。それだけ愛に没頭していたともいえる。
去年の10月10日祥子に紹介されて冬香と知り合ったこと、その後メールアドレスと携帯電話の番号を交換して京都のホテルで密会を重ねるようになったことなどを読み上げる刑事。そのつど菊治は冬香の手が風の盆を思い出させたなあとか、密会なんて妖しげな表現は不本意だとかいろいろ回想するが、特に菊治が異議を述べないので淡々と読み上げは続いてゆく。調書の中で「冬香」と呼ばれていることも、菊治には違和感がある。
さらに調書は進む。冬香一家が引っ越してきたこと、昼日中に菊治の部屋で何度も逢ったこと、そしてそのつど性行為に及んでいたことが書かれている。その書かれ方は覗き見的で、菊治は不快だったが、書かれ方には不満があっても内容は間違っていないので何も言えない。
神宮外苑花火大会の夜の描写になり、調書の中では第2ラウンドを求めたのは菊治のほうからということになっていた。事実は冬香のほうから求めてきたわけだが、菊治は小さな声で「いえ…」とつぶやくだけで、冬香のイメージのため明確に反論はしない。
調書にある犯行事実は、菊治の供述に基づいて書かれているが、その細部には食い違いが見られる。冬香が「殺して」と言ったのは「戯れに」ということになっているが、冬香は本気で殺して欲しかったはずだ。決して戯れなどではない。それを指摘すると刑事はセックスの最中に口走ることは戯れであると決めてかかっているようで、容易に訂正しようとはしない。刑事は量刑には関係ないと言うが、菊治にとっては大事な愛の形だ。ここはねばってようやく刑事は「戯れに」の三文字を線を引いて削除した。
調書は殺害の描写になる。冬香が苦しむのもかまわず菊治が首を絞めあげたことになっていた。ここも納得がいかない。絶対に冬香は苦しんでなどいなかった。咳き込んだだけでその後に「殺して」とも言ったのである。そのことを刑事に申し出ると、刑事はそんなことあるわけがないと信じない。菊治の言にいらだっているようである。
つづく。
菊治は回想しまくり、刑事は勝手に決め付けすぎ、そして淳ちゃんの脳内読者の設定レベル低すぎ。淳ちゃんは語るに堕ちるというか…「オレ以外のほかの人は女の方から求めるようなことはしないと思い込んでるかもしれないけど、そんなことないからな」と言っちゃうことによって「いやいや、思い込んでるのはアンタやろ!」という感想をもたれてしまう傾向にありますね。例えば直木賞の選評でも淳ちゃんは角田光代さんの「対岸の彼女」に対して「男性諸氏は日常のちまちました話だと思うかもしれないが、このようなちまちました話に人生の真実がにじみだしている」とかなんとか言ってしまい、「いやいや、アンタがちまちました話だと思ってるんやんか!失礼な!」と言う感想を私のような一読者に抱かれてしまっています。
ああっ、面白い小説求む。笑えなくても暗くても問題作でもいいけど、とにかくちゃんとした面白い新聞連載を切に願っております。