脱力…ただただ脱力…

ああっ、明日で仲代達矢私の履歴書が終わってしまう…名残惜しや…「愛の流刑地」です。
といっても、何かバカバカしすぎてどうにもこうにもな感じですよ。
(26〜29日)
中瀬現る。3回目の面会である。最多賞。
元気か?おい元気そうだな、と自己完結な挨拶に始まって掌を広げ、キョムネツが発売開始1ヶ月で増刷5万部かかったぞと知らせてくる。
印税の振込先をきいてくるが今までと同じだと答えるとすこし笑う中瀬。お金はかぱかぱ入ってくるのに当の本人は獄につながれ美味しいものも食べられず、欲しいものも買えない。そこがおかしかったのか。せっかくベストセラー作家に返り咲いたというのに、自分は殺人犯の汚名を着せられ、幸せなのか不幸なのかワカラナイ。
こないだの裁判、なかなかよかったと中瀬は言う。特に冒頭で遺族に謝ったことで、印象がよくなったという。率直な感想を聞き気恥ずかしく思うが嬉しい菊治。…バカ爺どもめ
遺族らしい者はいたかと菊治が尋ねると、涙ぐんでいる年配の女性がいたので被害者の母親かもしれないという。冬香の夫や子供のことばかり考えていて母親のことまで思い至らなかった。ただただ頭を垂れるだけである。中瀬は冬香の夫に興味津々だったので見渡してみたもののそれらしい人物は見つけられなかったという。では法廷には来ていなかったのか、と決め付ける菊治。
ベストセラー作家になったがゆえ、前回の裁判にはマスコミも多数訪れてい、傍聴券を取るのも一苦労だったと中瀬は言う。法廷戦略の嘱託殺人路線はマスコミにも浸透しているようで、新聞などにも「村尾氏、嘱託殺人を主張」と出ているからみんな分かったんじゃないの?とも言う。この気楽っぷりはなんだ。何しに来てるんだ中瀬。戸惑う読者(私)を置き去りに、中瀬は社の関係の弁護士に聞いたという菊治の量刑予想「2〜3年で出られるだろう」を披露している。菊治にはその2〜3年が適当なのかどうかもよくわからない。
中瀬の能天気な面会から3日後、菊治に手紙が届く。
菊治のなじみの新宿荒木町のバーのママからである。以前本が出版されない愚痴をこぼしたり、エクスタシーについて語り合ったりしたなじみのママだ。達筆な手紙のその内容は
丁寧な書き出し、事件について心から同情するとの言葉、そして…

「わたくしごときが、とやかくいうことではないかもしれませんが、マスコミやまわりの人々がなんといおうと、わたしは村尾さんの無実を堅く信じています」
ここまでいいきってくれる人は初めてである。

食い入るように読む菊治。「女がエクスタシーの絶頂で死を願うことはある。実際私がそうだった」と書中にて告白するバー・マコのママこと菊地麻子。菊治はバーでエクスタシーに語り合った日を思い出す。エクスタシーを感じたことがあるかと問うと、感じたことはあると即答したママ。あの時も同士を得た気がして安堵したものだった…
さらに手紙は続く。
「今のマスコミの騒ぎ方は興味本位で愚劣だ。ある女性評論家は、『セックスの最中に殺してと言っただなんて女性蔑視だ』と言っていた。女性蔑視をしているのはその評論家自身だ」そんな騒ぎになっているのか。菊治はいやあな(原文ママ)気分にとらわれる。

「世の中には本当の性の悦びを知らない人が多すぎるのです。女性は心から好きな男性に、素敵な愛と技巧で導かれたら、狂おしいほどのエクスタシーに導かれることは、たしかです」
ここにきて、菊治は思わずうなずく。
「特に冬香さんを、ただふしだらで淫らな女、と決めつけている主婦たちは、本当の意味での性の悦びを知らない人たちです」

ママもだいぶ人を勝手に決め付けていますがそんなことはスルーしまくりで菊治に同意しまくり。女性だけでなく殿方のこともさび付いたかみそりで切りまくるママ。この事件を面白おかしく酒の肴にして話題にしている殿方らも女性をエクスタシーの絶頂に導いたことがないからだと断罪。そして、「(菊治の)仰っていることを信じるし、冬香に嫉妬する」と続ける。さらに冬香はエクスタシーの絶頂で死ねたのだから最高に幸せな女性だとも断言するのである。

「愛する女性をあんな幸せな世界に導いて、殺人という罰を受けるなど、これほど理不尽で不当なことはありません」

このように考える女性もいるのだということを知らせたくて筆を執った、と手紙は結ばれていた。
つづく。

……
………
どうしてくれよう。
あのですね、渡辺さん。この「愛の流刑地」が何で批判されてるかっていうと、説得力が全然ないからなんですよ。本当に「素敵な愛と技巧で導かれる」さまを作家さんが書いてくれているなら、倫理に外れていようが、不道徳な内容だろうが、かまわないんですよ。文学がいつも道徳的である必要ありませんし、そればかり求められていたらピカレスク小説なんて成り立ちませんしね。
でも冬香と菊治のどこに「素敵な愛と技巧」があったんディスカー!!
「素敵な愛と技巧」があるなら白スリップの下にパンツ履いてようが、たまにはキャミソールを着てこようが、そんなことなんかどうでもよくて、二人で盛り上がっていけるわけでしょうに。避妊しながらのセックスも情熱的に盛り上がりましょうに。「パンツ脱いどけって言ったじゃん」だの「オレキャミ嫌い」だの言ってたバカのどこに、京都への新幹線代ひとつ、ホテルの延長料金の一つにぐちぐちぐちぐち言っていた男のどこに、花見の一つも見に行かず常に菊治の部屋であへあへやることしか考えてなかったサルのどこに、「素敵な愛」があったというのーーー!
しかし、荒木町のママも妄想激しすぎ。キョムネツ読んで、週刊誌の記事かなんか読んで、ママの中では菊治は加藤鷹以上の超絶テクの持ち主にされてるみたいですけど、実際は大したテクもってませんよーー。ちょっと秘所をレロりあったくらいでキクジカンゲキしているような、性のおこちゃまですからね、菊治は。
ついでに言えば、どんなに超絶テクをもっていようとも、相手殺しちゃったら殺人罪なのは変わらないですからね。嘱託殺人だろうが殺人は殺人ですから。罪は償わないと。