菊治はうわっつら

地の文で「罪の深さが身に沁み」と書くよりも、身に沁みているさまをきちんと描写せよ。「愛の流刑地」です。
(17日〜19日)
いろいろな思いが去来する菊治。

まず一つは、深い罪の思いと後悔である。

冬香亡き後の家庭の様子は生々しくて辛く、「おかーさんはいつかえってくるの?」と問う子供の様子も切ない。最悪の殺人を犯したのは自分だと思うと罪の深さが身に沁み、死にたくなる。そんな弱気の様子の菊治をキタちゃん弁護士は励ます。

「あなただけが悪いのではありません。これは被害者も、あのご主人も、みなでおこした事件です」
そういわれると、いくらか気持ちがおさまるが、それで犯した罪が消えるわけではない。
「ともかく、一旦は忘れよう」

菊治が常に罪の意識に駆られていたとはまったくもって知りませんでした。キタちゃんに至っては…もうしらんわ。
ともかく、一旦忘れようと自分に言い聞かせ、ひとり冬香の登場を待つ菊治。ふわふわ登場する冬香。「ご主人に会ったよ」「素敵でスマートだった…」「愛していて、仲も良かったと言っていたよ」冬香答えない。「妻が可哀想、悪い男にたぶらかされたって言ってた」冬香が白い顔をかすかに揺らしたように見えた。
それにつけても冬香の夫である。夫婦仲はよかった、トラブルなどなかったと言い張るが果たして本当だろうか。冬香からいろいろ聞かされていた菊治としてはにわかには信じがたい。性的にうまくいってなかったと認めるのはプライドが許さなかったのか。
彼の話を聞いていると、有能な仕事人間という印象を受ける。製薬会社に勤めていた知人に聞いたことがあるが、製薬会社であのくらいの人材なら年収は1000万円くらい、使える会社の経費も含めるとかなりのものらしい。そんな収入のある夫を持つ専業主婦だった冬香だが、自分と出会ったことによって大きく人生が変わってしまった。裕福な暮らしを捨て、まっすぐ自分に向かってきてくれた冬香である。自分と出会い、体が開花し、互いを深く求め合った。どうも夫は冬香に優しい態度をとっていたとは思えない。それどころか、自分がしたいときに強引に求め、冬香にとって「セックスはイヤなもの」と思わせてしまったのだ。そう考えると、自分だけのせいじゃないのでは?と思う菊治。
菊治は次の審理でボイレコが出てくることになったのがとても気がかり。あれをみなに聞かれるのか。二人だけの秘密を人に聞かれるなど耐え難い話だ。
しかし検察に押収されていると聞いて不安になり、内容について北岡に話すうち、証拠として申請するということになった。気の進まない菊治だったが、このままだと一方的に不利になると言われ応じることにしたのだ。
そうまでして罪が軽くなりたいのか、と自分に問い、「そうだ」と答えた先から「違う」と否定する。
あれを公開するのはわれらの愛に対する冒涜だ。そんなことは百も承知だ。だが、同時にこのとらわれの状況から一刻も早く脱したいのだ。

晴れて太陽の下に出て、思い切り腹のそこまで自由な空気を吸ってみたい。

…だからさー、殺したのは事実じゃん。まるっきり濡れ衣着せられてるみたいな言い草は何?罪悪感ありまくりとか言ってたわりには、やっぱり罪悪感なんか全然感じないんですけど…。
とにかくボイレコはできれば誰にも聞かれたくない。裁判官と検事にはもうしょうがないかもしれないが、せめて一般傍聴人には聞かれたくない。
すると非公開という方法があるとキタちゃん。認められるかは分からないが、申請してみるという。中瀬や友人、冬香の家族、そして特に息子の高士には聞かれたくない。何と思われるだろうか。

考えるだけで、菊治の頭は錯乱しそうになる。

この連載が続いていることで、読者の頭はもう錯乱状態ですけどね!
つづく。
ついでに「錯乱しそうに」じゃなくて、もう菊治も淳ちゃんも錯乱してるからね!

この連載終盤に向けて(向いてるのか不安は残るところですが)、淳ちゃんがいろんな捏造(例:ボイレコを冬香容認とか、菊治が冬香に優しかったとか、菊治が罪悪感でいっぱいとか)を謀っておりますが、たぶん単行本化にあたって全部最初からそうだったことにされちゃうんだろうなあと思うと人として虚しさを感じる今日この頃です。後だしジャンケンし放題だろうなあ…もう出版社に良識とかないんだろうな。淳ちゃんが思うままに書き直して「さすがわたなべせんせい」とか言っておだてて、会社の経費を自由に使って淳ちゃんを接待したりするんだろうなあ…それによって喜ぶのは淳ちゃんだけなんだけどなあ…