中瀬もバカだし

あたまわりぃひとばっかりでてくるよー。「愛の流刑地」です。
20日〜22日)
思い悩んでいるある日、中瀬来訪。証人として出廷するにあたり、できるだけのことはすると言ってくれる中瀬。「男女のことは分からんが、ひとりの女性を愛して小説を懸命に書き上げたことを言おうと思う」
「できることはなんでもするから、何か言ってほしいことはあるか」と問う中瀬。菊治が別にないと応えるとちょっと拍子抜けの様子。思い出したように5本指を広げ「増刷決定。年内に5万、全部で20万だ」と笑う。年明けには30万もありうるそうだが、印税はどうせ使えないし増えるさまも見られないし、菊治には売れているという実感がわかない。
「無罪になるようがんばろー!」とのりのりの中瀬だが、菊治のりきれず。

さまざまなことが思い浮かぶ。気がつくと独房の隅で膝を抱えて物思いにふけってしまう。
秋は人生の寂しさと孤独感をかきたてる。
頬杖に深き秋思の観世音
京都で行った広隆寺弥勒菩薩像を思う。信仰心は特にない菊治だが、何かに縋ろうとしてしまうのは心の不安のせいなのか。
新聞には早くも一年がすぎようとしている、とあった。月日の流れるのは早いと思うのは、一般社会の人だけだ。獄中の菊治にとっては長い毎日だ。1週間たったと思っても、まだ2、3日しか経ってないことはざらである。全てが長すぎる。遠くなった普通の暮らしを思う。*1
中瀬の来訪から3日後、検閲済みのはんこが押された手紙が菊治の下へ届いた。
差出人は小野成男。誰なのか見当がつかなかったが、手紙を読むと菊治が借りている部屋の所有者だった。菊治の借りている307号室を買ってほしいということのようだ。
残念だが、殺人のあった部屋では借りる人を探すのも買う人を探すのも難しいと思うとのこと。

そこまで読んで、菊治は思わずうなずく。

またうなずいてます。
ともかく小野氏の手紙は非難がましくないため、菊治は申し訳なく思う。

「建築後、やや年月も経っていますので、1500万で結構ですから、なんとかお買い求めいただけないでしょうか」
これが真意であったのか。

買ってほしいってわかっていたのではなかったのか…あるいは「何ぃ、本が売れてるからって金目当てか!」みたいな意味合い?
手紙を読み返し、家主に迷惑をかけたのは自分であるから買い取るのは当然かも、と思い始める。これから入る印税で買えないこともないし、冬香との思い出も詰まっている部屋だし。直ちにその値で買い取る旨連絡することにする。
つづく。
だから菊治は殺人の濡れ衣を着せられてるんじゃないと何度言えば分かるんだ淳。

*1:ここは読売新聞夕刊掲載の「仕事/私事」コラムで淳ちゃんが書いていたことと同じだよ…ちなみにこの3連休と年末年始のため10日くらい前倒しで書き溜めてるらしいですよ。いいよ原稿落としてくれて。その方がいいって。