おじさんの思考停止

しごとがどんなにできるひとでも、おんなのひとをアンアンいわせられないようではだめだとおもいます。(菊治小学校時代の作文2)「愛の流刑地」です。
(19日)
結局祥子は何をしに来たのか。東京での仕事のあてを菊治に頼みたかったのか。それとも冬香と菊治の関係を探りに来たのか。
ともかく、メル友なことはバレてしまったが、深い関係にあることはバレずにすんだようだ。祥子は取り留めのない話ばかりをして帰ってしまった。
それにしても冬香の夫が東西製薬という大手企業に勤めていたとは。その上、優秀であるから東京へ転勤してくるとは。更になかなかハンサムで優しい人だとは。
冬香が言っていたイメージとは著しく異なる。

はっきりいって、菊治は少しおもしろくない。
できることなら、冬香の夫は怠け者で身勝手で、醜男だといいと思っていたが、これではまるで逆である。自分より若いうえに、ハンサムで優しくて、才能があるとあっては、こちらの立場がない。

そんなん知るか!(読者の心の声)
冬香は自分だけを頼りに生きていると思っていたのに。そんないい男が夫なら、自分のような男に引っかからなくてもいいのに。
菊治は憮然としながら考える。
まてよ。
もしや祥子は私と冬香を引き離すために言ったのではないだろうか。冬香が東京に出てきて、菊治と親密になったりしたらイヤだから、嫉妬しているのでは。
はたまた、冬香の夫は外面と内面が違うのではないか。なにせ、仕事ができるからってベッドテクまでうまいとは限らないのだし。

「仕事ができることと、女を満足させる能力とは何の関係もない」

(20日)

いまひとつ気になったのは、「あの人、本気になったら大変よ」という祥子の言葉である。

大変とは、本気になったらとまらなくなる、という意味だと思うが、だから大変というのはちょっと違うだろう。それに恋をすれば人は皆相手にのめりこむものだ。特に女性にはその傾向が強い。
どこか世間知らずな感じのする冬香が燃え出すととまらないからといって、悪いともいえまい。

それというのも、冬香がのめり込む相手は自分である。もし彼女がそれほどまでに自分を愛し、一途に燃えてくれるのなら、そんな嬉しいことはない。

先日の嬉しい三段活用の時に気持ちが重いなどと言っていた人とは思えない嬉しがりぶりです。
祥子は冬香が一途に菊治に燃え上がったら、家庭が大変なことになりますよ、責任はあなたにありますよ、と言いたいのかもしれないし、それに耐えられるのかと尋ねているのかもしれない。

しかしはっきりいって、まだそこまですすんだわけではない。まだ2人は、冬香の家庭の事情の許すときに、密かに逢っているだけである。むろん、冬香は本気だと思うが、まだ大変、という段階まで至っているわけではない。

そうね、菊治まだ横と正常位とバックしかやってないもんね…って、オイ!あくまでも本気汁は冬香しか出していないかのような言い草です。
やっぱり祥子は大袈裟に言っているだけなのだ。「たいして気にすることはない」と菊治は結論付ける。もし冬香がもっと本気になって家庭を捨ててきたら大変だろうが、菊治は逃げも隠れもせず、それをきっぱりと受け止めるつもりでいる。
サラリーマンやエリートなら困るだろうが、自分は違う。やくざな小説家、表舞台から消えて久しい自分には守るものもないし、別居生活が長い妻にも女性問題でとやかく言われることもない。

「どうってこと、ないや」
久しぶりに、菊治は自分に啖呵を切ってみる。

つづく。
おお、No future菊治。
もし冬香が家庭を捨てて出てきたら、受け止める気があったとは驚きです。
祥子も自分に気があるから、冬香の夫をことさらに良く言ったのではないか、というオメデタイ思考。いやあ、菊治らしさ全開です。さすが、季節は春ですね。
そしてこの素晴らしい思考停止。
これ以上考えると冬香の気持ちを重いと思ったことや、夫婦関係が崩壊したらどうしようと思ったことまで思い出しそうなので考えるのを止めてしまいました。やめやめ。
「どうってことないや」そうそう、思考停止なんてどうってことありません。でも小説家としてはそれではマズいのではないか、菊治よ…