菊治の会話はキャッチボールじゃない

枡野さんのところからいらした方、すみません、こんなところへ。「愛の流刑地」です。
(19日)
いつものように着替えを済ませバスルームから出てくる冬香。いつもと違うのは泣いたせいで目がはれぼったいところだ。菊治は理不尽な夫のいる家に帰したくない、と思い冬かを抱き寄せ接吻。冬香も同じ気持ちらしく、それは重ねた唇と舌で分かる。冬香は手にしたバッグをばさりと取り落とすのであった。
いつもは冬香が断ることもあって玄関で見送るだけだが、今日は駅のホームまで見送りたい。菊治は一緒にマンションを出る。出入り口のところで管理人に会う。何度か2人でいるところを見られているので、自分たちのことを恋人同士だと思っているのかもしれない。
(20日
駅に向かう途中で、菊治は冬香と手をつなぎたくなる。人はさほど歩いていないが近くに商店街はあるし車の往来もある。こんなところでいい年をした大人が手をつないでいたら皆が呆れるかもしれない。冬香に手をつなごうと言うとくすりと笑い、「そんなことをしたら、笑われますよ」と答える。菊治はかまわず冬香の手を握るが、すぐに離して歩き出す。
冬香の誕生日は5月20日だ。菊治は牡牛座の性格をあげてみる。

「牡牛座は、周りの人にいろいろ気をつかい、控えめで慎重で…」
菊治が、一度読んだことがある星座の本を思い出していうと、冬香が続ける。
「あまり先を急がず暢んびりしていて、地味で、堅実派で…」
「最後のところは、少し違う」

菊治が堅実でなくしたのだ、と冬香は言う。

「ふゆかの誕生日に、一緒に食事をしたい」
「してくださるの、ですか?」

冬香のしゃべり方がうっとうしいー。
夜は無理だろ、という菊治に「もし出てきたら逢ってくださるのですか」と聞く冬香。

「もちろん、泊まれるなら、どこかに連れて行ってもいい」
「ほんとうですね」
改めて念をおされて、菊治は一瞬不安になる。
もし本当に出てきたら、夫とのあいだはどうなるのか。

つづく。
つくづく菊治は自己都合。金曜日の夜に泊まれる既婚者がいったい何人おるのやら。「泊まれるならどこかに連れて行ってもいい」って、泊まらなくても連れて行ってやれよ。泊まらないとどこにも行けないのはいつも優先順位第1位がセックスだからでしょ。もうね、純愛よりも美しい性愛とかおっしゃるが、ちっともその美しさが伝わってこないのさ。いつも何かを貶めて「夫との間にはないすばらしい性愛が2人の間にはある」ってそればっかりじゃないの…全然すばらしくないし…