ひとり芝居と呼ばないで

なんと申し上げたらよいのやら。「愛の流刑地」です。
(3日)
冬香の体の中で一番燃えて熱くて奔放で正直だった花蕊もすでに死んでいる。

ここが冷たくなってはもはやあきらめざるをえない。菊治は秘所にほおずりしながら、そのことを自分にいいきかす。
「冬香はもう死んだんだよ。もう、生き返ることはないんだよ」

さてどうするか。やはり119番か警察か。わかってはいるが一晩くらいは一緒に過ごしてもいいだろう。これが2人最後の夜だし、冬香もそう願っているに違いない。「そうだろう…」と話しかけると、菊治の脳内では冬香の「はい」という優しい返事が聞こえてくる。
「わかった、そうしよう」と菊治のひとり芝居。仰向けの冬香を抱き寄せる。死んでから10分かそこらだが、やわらかい冬香の上体が菊治に倒れ掛かる。苦しくなってきた菊治は冬香を元の姿勢にもどして「やる」。
死んでいても冬香の体には冬香の心が宿っている。
「ずっと、オレが抱いているから、安心して休みなさい」と死体に声をかけ、タオルケットをそっとかける。

「明方、冷えるからね…」

ええー時間確認。現在8月1日の深夜であります。熱帯夜であるはずです。
(4日)
夢を見ていたのか、思い出していたのか、冬香との出会いから今までのことが走馬灯のように菊治の脳裏に現れては消える。
花火の夜を思い出すと、菊治は息苦しく、胸を圧迫された感覚になる。
最初は冬香と一緒である安堵感があったが、一人首を絞められ、怖くてダメだ…と思うとつい「やめろ…」と叫んでしまう。
冬香に「苦しかったんだろう」と話しかけ、「ごめん…」と謝りさらにすがりついて涙を流す。しばらくして冬香の髪をなぜながら、「静かに休みなさい」と思いやりを持っているかのようなことを言ってみる。
(5日)
その後少し眠る菊治。激しく2回燃えて、三度目にうっかり殺してゆき果てて(本文では「死を賭けてともにゆき果てた」だそうです)、その疲れが安楽な眠りをくれたのだろうか。
もしや生きているのではと冬香に声をかけるが、冬香の喉元には血の気のうせた指の痕がある。いくらもっと快感を味あわせたくてやったこととはいえ、こんなに激しく圧していただなんて…
「辛かったろう…」と頭を下げ、また涙する菊治。苦しくなかった?と問うても冬香は微笑んでいる。

冬香は苦しくなかったのだ。それより、痺れるほどの快感が全身を貫き、そのまま一気にエクスタシーに昇り詰め、恍惚の境をさまよった挙句、死んだのだ。
誰よりも誰よりも、激しく感じ、燃えたことに納得して、目を閉じたのだ。
「俺を、恨んでないね?」
さらにたしかめると、冬香の蒼ざめた唇が「はい」とうなずいたようである。

つづく!
愛していて甦らせたかったわりには簡単にあきらめる菊治です。なんというか「もうあそこがとろとろぬるぬるしてあったかくないんだったら仕方ねえや、ほんとに死んでるなあ」という確認ですかね。死んでいることが分かれば、今度は自分が恨まれてるかどうかが心配で、勝手に冬香が納得していると決めつけ、死んだあとも従順な女性としたいご様子です。死してなお、菊治プレイにつきあわされる冬香が気の毒ではありますが、それを望んだのも生前の冬香さんですから、仕方ありますまい。選んだ相手が悪すぎです。
「死を賭けて昇り詰め」とか言ってますが、セックスで死ぬのがそんなにすばらすぃことなんですかね。他にも生きる楽しみはないんでしょうか。子供の成長とか、子供が手を離れたら自分がやりたいこととか、その他いろいろ自分のやりたいこととか、冬香にもあったんじゃ…あ、まあこれまでの話の流れからしたら「ない」んでしょうがねぇ。