気にしい

文学って何だろう。編集者の覆面座談会望む。「愛の流刑地」です。
(11日〜14日)
本ができてから菊治はずいぶん落ち着いた。
一週間後に中瀬がやってきて、本の反響がものすごく、書店からの注文に応えきれないことなどを話して来るが、菊治にはあまり実感がわかない。
さらに本の贈呈先を聞かれたので、原稿を読んでくれた大学の講師仲間など数人に送ってもらえるよう頼んだ。ベストセラーに浮かれる中瀬はほかにはほかには?どんどん言ってくれとラリホー気味だが、菊治はその数人のみにしてもらう。
浮かれついでに中瀬は「現実に何をしても作家は作品さえよければいい」というようないい大人が言わないことを言いはじめ、さすがの菊治にもそこまで単純には考えられない。めずらしく、本が売れるほど社会的責任を問われることになる、とまで思うのであった。
本屋では「虚無と熱情」は山積みになっているらしい。北岡弁護士も知っていたようで、菊治が本を渡そうとすると既に買って読んだとのことだった。「男と女の違いが深く掘り下げられていて、参考になりました」
北岡は裁判での資料に使えると思っているようだ。そんなことをしたら自分が冷静だったことが分かってしまうのではないかと不安になる菊治。この点については弁護士と要打ち合わせだ。法廷が小さいので、このままだと傍聴席が人であふれそうだと弁護士に言われ、急に人前で裁かれるのがイヤになる。自分のありとあらゆる知人や元妻や息子が傍聴に来るに違いない。特に息子の目の前で裁かれるのは避けたい。
裁判の日はいつもより早く目が覚めた。法廷に引き出され、いろんな人の目に晒されると思うと眠れなかったのだ。だが、なるようになると自分に言い聞かせる。誰にも見られたくないと思うものの、さっぱりした姿でいたいと身支度を整える。
裁判所に護送され、控え室で待つ。傍聴席には一体どれくらいの人が集まるのだろうか。
自分の行為が裁かれる場であるが、自分の話し方によっては一般の人が抱いている事件への見方を変えられるかもしれない。そうならば、裁判もこちらの気持ちを分かってもらえるチャンスなのだ。北岡弁護士も悪びれることなく、自分の気持ちを正直に話すようにと言っていた。なるべく淡々と振舞おう。出廷の時間になり、警務官が腰縄と手錠をかけたままの菊治を法廷に連れて行った。
腰縄に手錠姿のまま入廷すると、傍聴席いっぱいに人がいるのが見えた。この姿を大勢の人に見られるのが惨めであり、ただ項垂れて被告人席に向かわされる。針のむしろだ。
裁判官が入廷し、「起立」「礼」で裁判が始まる。最初は人定質問である。
名前と職業を聞かれ、いよいよ裁判突入。
つづく。
…この弁護士は、やる気ないのな。悪びれるなって、本当に無実だったらそうかもしれませんが、殺人はしちゃってるんで悪びれない様子はマイナス印象ではないのか…っ?反省してる様子が全く見られないだけじゃなく、弁護士まで一緒になって反省しなくていい風な指導は裁判を迎えるにあたって大きな間違いなのでは…。淳ちゃん、きちんと弁護士に取材したのかね?
さてそろそろ美雪ちゃんの登場でしょうか。たぶん我々の期待には応えていただけないでしょうけれど、今読者の期待を背負ってもらえそうなのはあなたしかいないのですよ、織部検事!