すごおく長身

すごおく歯切れが良くて、すごおくエリート。ああん、すごおい。「愛の流刑地」です。
(3日〜7日分)
手紙の主は息子の高士だった。
誕生日を祝う言葉が述べられ、菊治の体を心配する手紙である。
母からは何も言ってこないと思うけど、元気だから心配しないで、という高士の言葉に、妻は自分を怨んでいるのではないかと思う菊治。
「父さんを誇りに思う」という一文になんともいえない嬉しさがこみあげる。
なおも読み進めると、「今度の小説も凄いと思いました」だの、「父さんは立派な作家だと思う」だの馬鹿っ父を褒め称える高士。ああ高士よ、オマエもか…
そしてどんな罪になっても菊治を信じると続け、体に気をつけて頑張ってくださいと結んである。確かに高士にとっては菊治はただひとりの父であり、それは殺人犯となっても消えない絆なのであると覚ったのであろう。手紙を読み終えた菊治は大きくうなずく。
手紙には、結婚の破談や会社で殺人犯の息子と噂されているだろう辛い現実にくじけず生きている決意と気迫が滲んでいた。
ああ高士よ。菊治はすぐにでも抱きしめてやりたい衝動に駆られた。強がってるだけかもしれない息子の手をしっかり握り、謝りたい…
その夜菊治は手紙を書いた。息子に手紙を書くのは初めてのことだ。手紙をもらい嬉しかったこと、迷惑をかけたこと、そして最後は「ありがとう」と3回繰り返した。
四谷のママや高士からの手紙に勇気づけられる菊治。
(新章 秋思)
あっという間に2回目の期日である。
公衆の面前に晒されて審理されるというのに、空は秋晴れで気持ちのいい日和だ。この秋の空気を懐に入れて持ち帰りたいくらいだ。だが、裁判所の地下の仮檻原文ママ)は薄暗く、気持ちのいい秋の空気など全く届かない。凹んでいると時間が来る。よし、せめて胸を張って入廷しよう、と決意する菊治。
しかし法廷に入ったとたん目を伏せる。卑屈になるなと自分に言い聞かせてみてもダメである。
裁判官から証人尋問がある旨告げられ、織部検事が立ち上がる。秋らしい淡いベージュのスーツで、胸元は前回よりも開き気味。そこには小さなネックレスが光る。

「今回の事件の被害者の夫である、入江徹さんを証人として喚問します」

騒めく法廷。傍聴人の誰よりも興味津々の菊治。裁判官は淡々と弁護人に意見確認をし、やがて証人が呼び込まれる。

上目づかいに、菊治はその全てを見て、かすかに息をつく。
はっきりいって、菊治には意外であった。

身長174、5センチ、すらりとした長身(ん?)、白縁のメガネ男子。グレイのスーツに黒っぽいネクタイの42歳(菊治推定)、普通のサラリーマンと変わらないやや痩せ型で落着いた態度…これが噂の冬香夫・入江徹氏であります。
一瞬目が合うものの、互いに慌ててそらすふたり。
冬香の夫が証言台に立ったわけである。
名前を聞かれて「入江徹です」と名乗り、裁判官に促されて宣誓書を読み上げる。歯切れよく明快である。そして検事とのやり取りが始まった。
勤務先は東京製薬東京本社営業部・大学病院担当である。「有能だったのですね」との検事の問いに入江氏はいいよどみ、少し間をおいてから「そういうことです」と答える。

一見して、スマートで優秀そうだと思ったが、製薬会社でもかなりのやり手なのか。

なのか。そうなのか。東京への転勤はどうやら栄転だったようである。

「そのとき(注:東京への転勤の話をしたとき)、被害者、すなわち奥さまはなんといわれましたか」
証人は少し考え、それから小声で答える。
「よかった…と」

つづく。
性のエリートは本物のエリートにものすごおく卑屈です。「卑屈になるなオレ」と言ってみても本人ここへきて急に卑屈になったわけじゃなくて前から冬香夫に対して卑屈だったんで(性以外では)、もう入江氏のすべてがすごおくエリートに見えてしょうがないご様子。